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2005年11月20日 (日)

沼田祇園祭 其の十

Sdsc03439ed_1天狗みこしは巨大な天狗の面を御輿に仕立てたもので、その重さは五百キロ近くになるといふ。家庭を守る女性が担ぎ出すことで家内安全の御利益があると云はれてゐて、それを担ぐのは女性に限られてゐるのだが、その女性の数の多いこと、揃ひの黄色の半纏を身に纏ひ、「わつしよい、わつしよい」と甲高くも威勢のよい掛け声とともに繰り出してきたから、ただでさへ混雑してゐる本町通りは大変な賑はひとなつた。

町の明かりと祭り提灯の見分けもつかない、青い光や白い光、眩い光やぼんやりとした光が澤山錯綜する中、山車のお囃子と御輿を担ぐ人たちの掛け声とそれを取り巻く人たちの喚声が混じり合ひ、一つのうねりのやうなものとなつて小僧の耳の奥を圧迫するのであつた。そのやうに祭りも最高潮になると、じつとしてはゐられないのが小僧で、せつかく沼田まで來たのだから御輿でも担がせてもらはうと、男たちが御輿を担いでゐるところへ飛んで行つたのだが、神輿を取り巻く人の数が多くて担ぎ棒には触れることもできなかつた。

そこで、神輿を担いでゐる男たちの頭の上から御輿の上にと飛んで、担ぎ棒の上でぴよんぴよん飛び跳ねながら「わつしよい、わつしよい」と叫んでゐたのだが、忽ち周りに居た男たちによつてその上から引き摺り下ろされてしまつた。やむなく天狗みこしのはうに向かつたが、そこでも「このエロ野郎!」と女性に蹴飛ばされる始末、半分ふらふらになりながら人込みの中をさ迷つてゐると、後ろから腕を掴む者が居る。誰だ、と振り返るや否や、肝を潰すほど驚いてしまつた。

そこには上之町の山車に飾られてゐた、あの大きい三条小鍛冶宗近の人形が長い槌を手にしてヌツと立つてゐたではないか。
「こ、これは一体どういふことだ」
小僧が唖然としてゐると、その小鍛冶の人形が今度は口を大きく開けて笑ふのであつた。
「ハッハッハッハッハッハ!ハッハッハッハッハッハ!オレは普段小鍛冶の人形に化けてをるが、小鍛冶でもなく、人形でもない。この沼田に古くから住んでをる天狗ぢや!」
「す、すると、須賀神社でオイラに謎をかけてきた天狗は・・・」
「さう、このオレぢや。お前をずつと観察してをつたが、どうやら狼藉を働いてをるやうだな」
「そんなことはない、ほんの少し御輿を担ぎたかつただけだ」
「まあよい、許してやらう。しかし、お前は東京から來たのではなかつたか?そろそろ帰らないと電車が無くなるのではないか、どうぢや?」

小僧が天狗の言葉にはつとして近くの雑貨屋の店の中を覗くと、そこの壁に掛けられてゐる時計の針は八時を廻つてゐた。東京までは四時間ほどかかるからぎりぎりの時間であつた。慌てた小僧がそれから直ぐに沼田の駅に向かつたのは云ふまでもない、天狗の笑ひ声を背中に聴きながら。

雑踏に太鼓の混じる祭あと  神楽小僧

(了)

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