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2005年12月27日 (火)

秩父祭 其の四

Simg_5584 誰かがこの小僧の顔を思ひ切り踏んづけたに違ひなかつた。その昔近所の子供たちとドツヂボールをして遊んでゐた時、力のある腕白坊主に横つ面にまともにボールを当てられたことがあつたが、それと同じやうな重い衝撃を突然頬に感じ、その激しい痛さに吃驚して眼を覚ますと、辺りはすつかり暗くなつてゐたが何やら騒然としてゐて、少し離れた所から若い女性たちの何かを叫んでゐる黄色い大きな声が聞こえたかと思ふと、秩父独特の速いリズムで連打するお囃子の太鼓の音がだんだんと近づいてくるのが判つた。焚き火の側で眠りこけてゐる間にいつの間にか時間が経ち、夜祭りが既に始まつてゐたのであつた。

頬をさすりながら立ち上がると、眼の前には澤山の人が立ちはだかつてゐて、丁度その通りにやつてきた祭り屋台を押し合ひ圧し合ひしながら眺めてゐるところであつた。その人込みに遮られて前の通りがよく見えないので、力づくで人を押しのけてその前に出ると、澤山の若い女性が例によつて威勢のよい掛け声を上げながら屋台の曳き綱を引つ張つてゐる光景に出くはしたのであるが、その女性たちの中にはすつかり酩酊状態、何もかも忘れ恍惚となつてゐる人たちも居て、曳き綱と一緒にあちらへふらふらこちらへふらふら、勢ひ余つて、といふよりも見物人をからかつてやらうといふことなのか、最前列に居る小僧たちの懐へ数人が束となつてどつと倒れ込んできて、そのうちの一人は抱きかかへた小僧にうつとりとした眼を向けたかと思ふと、何を思つたのか吃驚してゐる小僧の顔をその柔らかい手で撫で廻していくといふ有様であつた。

といふわけで、随分酔つてゐるとは云へ、若い女性にこんなことをされるとは、はるばる秩父へ來た甲斐があつた、へへへへ、などと鼻の下を長くしてニヤけてゐたのであるが、Simg_5614 よいことは長く続かな いのが世の道理、ぼんやりしてゐるところを突然後ろから強く押され、あつと声を出す間も 無く道路に倒れてゐて、丁度そこへやつて來た屋台の車輪の下敷きになつてしまつたのであつた。したがつて、小僧の頬の一方には靴の跡、まう一方には轍の跡がくつきりとできてしまひ、その後一箇月ほどの間は恥づかしくて外を歩けないといふ情けない有様であつた。

マニキユアに曳き綱委ね屋台行き
神楽小僧

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