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2006年5月27日 (土)

浅草三社祭 其の三

Simg_0115_1浅草神社の神楽殿で芸者さんたちの奉納舞踊を堪能した小僧だが、それを観終へると、厳かな巫女さんの踊りではなく、神社の神楽殿でこのやうな色つぽい踊りが観られるとは、流石に浅草は違ふなあ、と変なところで感心したのであつた。浅草と云へば、『江戸つ子』『下町』などといふ言葉が直ぐ頭に浮かぶが、やはりそこに住んでゐる人には捌けた人が多いのだらう、そして、その下町の浅草でサンバカーニバルやヂヤズコンテストなどの洒落たイベントが毎年催されてゐることを考へると、その人たちは意外に新しいもの好きであり、祭りが本当に好きなその性格から、町が活氣づくならなんでもやつてやらうといふ心意氣に溢れてゐるのだらう、いづれにしても、浅草といふ町は他の東京の町とはかなり違ふやうな氣がする、などと小僧はその時思つたのであつた。

それはさておき、その芸者さんたちの舞踊に続いて地元のグループによる太鼓の演奏が神楽殿の側の特設ステーヂで行はれたのだが、これもまた浅草の住民の元氣のよさが感じられるやうな、熱氣溢れる素晴らしい演奏で、境内を騒がせた失敗があつたとは云へ、その日は小僧にとつて予想外に収穫の多い、満足すべき一日であつた。

と云ひたいところだが、一つ残念であつたのが、太鼓の演奏が終はるなり突然激しい雨に襲はれたことで、そのやうなことになるとは予想できずに傘を持つてきてゐなかつた小僧は暫くの間雨宿りを余儀無くされたのであつた。通り雨とは云へ、その雨はなかなか降り止まず、浅草寺の本堂に逃れた小僧はその中の回廊に大勢の見物客と一緒に足留めを喰らふ羽目になつたのだが、無情にも本堂は五時になつて閉められてしまひ、やむなく皆と一緒に雨が容赦なく降りつづく外に出なければならなかつたのであつた。

だが、本堂の出口から外に出るなり、「傘があるよ~ん!、傘はいらんかねえ~!、いつぽんよんひやくえ~ん!」といふ大きな声が聞こえた。小僧が辺りを見廻すと、境内へ続く石段の降り口で、Tシヤツにジーンズといふ姿の背の低い男が百円シヨツプで賣つてゐるやうな安つぽい傘を数本抱へながら声を嗄らしてゐるのが見えた。そこで小僧は、こんな所で傘を賣るとは、なんといふちやつかりした奴だ、それも一本四百円とは、くそお、足下を見やがつて、と幾分憤慨したのだが、小僧の方に向いたその男の顔を見た途端、あつと驚いた。その男は異様に頭が大きく、おでこが広くて眼が大きい一度見たら忘れられないやうな童顔の持ち主であつたのだが、それは間違ひ無く、小僧の悪友である妖怪の豆腐小僧であつた。

Simg_0122_4 吃驚した小僧がその豆腐小僧に近寄ると、豆腐小僧のはうでも小僧に氣がついたやうであつた。
「これはこれは、こんな所で神楽のアニさんにお眼にかかるとは」
「一体どういふことだ!?豆腐ではなく、こんな所でちやつかり傘を賣つてゐるとは」
「ケケ、そこの屋台でいつものやうに豆腐の味噌田楽を賣つてをつたのでやんすが、雨が降り出したので、かうやつて傘を賣るはうに切り替えたのでやんす。三社祭にはよく雨が降るので、ここに屋台を出す時にはいつも傘を仕入れておくのでやんす。この豆腐小僧もなかなか頭が廻るはうでやんしよ、ケケ」
「さうだつたか、しかし、何処までも抜け目の無い奴だな、お前は」
「ケケ、どちらかと云へば賢いと云つてほしいでやんす。ただ、その分荷物が多くなつて困るでやんす。大きな荷物は香具師の親方に車で運んでもらうからよいのでやんすが、このやうな傘はこの豆腐小僧が豆腐などと一緒に背負つてここまで運んでくるのでやんす、だから苦労するといふわけで」
「フフ、判る、判る、お前はどう見ても力が無ささうだからな」
「ケケ、傘だけに、骨が折れるといふわけで」

夕立や賽銭箱をつい覗き  神楽小僧

(了)

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