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2006年6月15日 (木)

西枇杷島まつり 其の二

Simg_0143 その朱藍坊、いつもは着流しの上に父親の形見と本人が云ふ戦前行はれてゐた名古屋の東照宮祭の祭り半纏を羽織つてゐるのだが、その時は浴衣に下駄といふ恰好で、
「西枇杷島まつりのポスターに『浴衣を着て花火を見に行かう』とあつたから、オレもこのやうな恰好をしてやつてきたといふわけだわ。どうでや、浴衣姿のオレも満更ではにやあだろ。だが、色男がこのやうな粋な恰好をしとるもんだから、先程から女の子に限らず擦れ違ふ奴がみんなこのオレをヂロヂロ見るんだわ、だから少し照れくさくてな、ヒヒヒヒ」
などと上機嫌であつた。

だが、その朱藍坊の着てゐる浴衣をよく見ると、それは白地に藍色の花模様があしらつてはあつたが、一眼で安物と判るやうな代物で、そのうへ下前には斜めに『ビヂネスホテル助六』と大きく染め抜いてあるのが見えた。そこで小僧はその浴衣は朱藍坊がその辺の安いビヂネスホテルからくすねてきたものだと察したのだが、それと同時に、これでは擦れ違ふ人たちが朱藍坊をヂロヂロ見るのも無理は無い、と独り納得したのであつた。

「ところで、小僧よ、オレは腹が減つてをる。だから、その辺の屋台で何かおごつてくれんか? できれば、オレは焼きそばがよいのだが、それと焼き鳥もな? そして、デザートにバナナチヨコなどがあればもつとよいのだが」
「やはり、さうきたか。お前はオイラの顔を見るといつも『何かおごつてくれ』ではないか」
「ヒヒ、まあ、さう云ふな。オレとお前の仲ではないか」

小僧は朱藍坊の願ひを聞いてやらないわけにはいかなかつた。何故なら小僧は朱藍坊に借りがあつたからである。二、三年前のことであつたらうか、やはり同じやうに西枇杷島や東區の天王祭を見物するために名古屋を訪れた小僧であつたが、一日早く名古屋に着いて名古屋競輪場で遊んだことがあつた。パートの仕事の給料が幾らか貯まつたから、たまにはギヤンブルで運試しをしてみるか、などと思つたからであつた。だが、その時の戦績は散々、どのレースも小僧の予想に反した展開となつて、小僧の買つた車券は全て紙屑になり果てるといふ具合であつた。そこで、熱くなつた小僧は残つてゐる金を全て 最終レースに注ぎ込むといふ勝負に出たのだが、それも完全に外れてしまひ、小僧は敢へ無くすつてんてんになつてしまつたのであつた。

Simg_0167jpg3_1 そこで、食事をする金も無い小僧はすつかり腹をすかして名古屋の町をうろうろしてゐたのだが、その時助けてくれたのが朱藍坊であつた。予てから小僧と知り合ひの仲であつた朱藍坊は、筒井町の辺りでばつたり出逢つた小僧から話を聞くと、オレに任せとけ、と云ふなり直ぐ様筒井町や出來町の祭り宿に出向き、日頃親しくしてゐる祭り関係者から食べ物を澤山頂いてきて小僧にそれを分け与へてくれたのであつた。

立ち退きし街を一つの山車が行き  神楽小僧

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