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2006年7月22日 (土)

筒井町出來町天王祭 其の六

Simg_0759 「え! といふと、あなたはストリ・・・へへへ、なんでもありませんので。さうでしたか、ダンサーでしたか。ふうーん、こりや、驚いた。あなたのやうな人がそのやうな職業とは。そんなふうには全然見えないが・・・」
小僧が驚いたのも無理は無い。実際、その三条さゆりといふ女性は、その時髪が極端に短かつたうへに化粧を殆んど施してゐない顔は素つぴんと云つてもよいくらゐで、小僧には普通のOLか女子大生のやうにしか思へなかつたのである。すると、朱藍坊が云つた。
「馬鹿だな、小僧、ダンサーと云つても普段から派手な恰好をするわけがないではないか。舞台に上がる時にだけかつらを被つたり、厚化粧したりするのだわ。それはさうと、オレは小便がしたくなつた、ちよつとトイレに行つてくる。その間オレのガールフレンドをよろしくな」

といふわけで、朱藍坊が何処かに姿を消すと、さゆり嬢はそれを見届けてから小僧に云つた。
「シユーさんはあんなことを云つてはるけど、うち、彼のガールフレンドでもなんでもあらへんのよ。シユーさんはしよつちゆう劇場に足を運んでくれはるし、うちも山車やからくりに興味があつたから、今日だけはシユーさんの願ひを聞いて、かうやつて附いてきてあげた、さういふわけなんよ」

話を聞けば、さゆり嬢は関西の出身で名古屋の山車を見るのは今回が初めてといふことであつた。そこで、小僧は彼女に山車やからくりの説明をすることにしたのだが、広場の中央では筒井町の湯取車のからくりが丁度始まつたところであつた。湯取車のからくりは湯立神事を人形が演じるものであるが、湯立神事とは巫女が神前で沸かした湯を笹の葉で身に振りかけて神の仰せを窺ふといふ古來から広く行はれてきた神事である。

ところが、小僧がそのからくりのことをさゆり嬢に説明してゐると、そのからくりが演じられてゐる湯取車の上山でちよつとした異変が起きた。巫女人形が両手に持つた笹の葉で釜の中の湯をかき回さうとすると、その釜の横から突然ぬつと現れた物があつたのである。それはサツカーボール大の物で、通常ではそのやうなものが現れることはなかつたから小僧は驚いた。一体何だらうと眼を凝らしてよく見ると、それはいはゆるスキンヘ Simg_0421 ツドと呼ばれる髪をきれいに剃りあげた人の頭であるのが判つたのだが、次の瞬間、横を向いてゐたその頭が前を向いて顔全体が露(あらは)になつた時小僧はあつと声を上げた。なんといふことか、それは朱藍坊の頭であつたのである。おそらく小僧たちを驚かしてやらうといふ魂胆からなのだらう、悪戯好きの朱藍坊はいつの間にか湯取車の中に潜り込んでゐて、からくりが始まるや否やその舞台に頭を覗かせたといふわけであつた。

その朱藍坊は上山から頭だけを出して暫くキヨロキヨロと辺りを見廻した後、まるで晒し首が笑ふかのやうに小僧たちの方に向かつてニコつと微笑んだのだが、小僧の隣でからくりを見てゐたさゆり嬢は近眼なのかそれに氣がつかない様子で呟いた。
「あら、この湯立神事のからくりつて、芸が細かいのね?」
「芸が細かい? そりや、またどうして?」
「だつて、湯を入れるヤカンまで用意してあるぢやない」

あれこれと今日は悩まず山車囃子  神楽小僧

(了)

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