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2010年9月11日 (土)

桂之介の詰将棋 其の二十一

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其の二十で書いたやうに、学生の頃に通つてゐた将棋道場は古い木造家屋の二階にあり、その道場に長く足を運んでゐるうちに、その家の階段を上つてくる足音を聴いただけでそれが誰だか十中八九判るやうになつたが、その中でいちばん判りやすいのが私より五つほど年上のKといふ男の足音であつた。

Kはその道場の常連で初段の腕前であつたが、その道場では少しばかり特異な存在であつた。どういふことかと言ふと、彼は一見して遊び人と判るやうな格好で昼間からその道場に入り浸つてゐることが多かつたが、案の定といふべきか、彼は一般に反社會的勢力と言はれてゐる集團の一員で、将棋といふ健全な娯楽を楽しむ人たちに歓迎されるやうな人物ではなかつたからである。

だが、Kは口数の少ない静かな男で、その道場での振る舞ひや態度に問題は無く、常連客のほとんどは彼が何者であるか知つてゐたが、表立つて彼を煙たがるやうな者はその道場に居なかつた。むしろ、本当に将棋が好きで、対局のときは一手一手熱心に考へることが多かつた彼は、その将棋に対して真摯で一生懸命なところや、負けても相手に不快感を与へるやうな態度は決して取らない潔さが好感を持たれてゐて、その素性は充分承知のうへで彼を対局相手に指名する者もその道場には少なくなかつた。

そんなKと私が親しくなつたのは或る事件がきつかけであつた。私はその頃その道場の近くにある一軒の小さなスナツクに出入りしてゐたが、遠くに花火の音が聞こえる或る夏の夜、私を訪ねてきた親友のAをそこに誘つたことがあつた。しかし、そろそろその店を出ようかと思つてゐたときにその騒動は起きた。私たちはカウンターに陣取つてゐて、Aの隣に一人の遊び人風の中年の客がビールを飲みながら座つてゐたが、その男とAとの間に一悶着が起き、たうたうそれは相手を殴り合ふやうな喧嘩にまで発展してしまつたのである。

事の発端は、その店の女の子に執拗に絡んでゐたその男を、見兼ねたAがたしなめたことにあつた。そのときは、酷く氣分を害した様子で反対にAに食つて掛かるその男に私が頭を下げて謝り、なんとか事なきを得たが、その男はその後も虫の居所が悪かつたのか、野球の話で盛り上がつてゐる私たちの間に横から茶々を入れ始め、つひには、広島出身で熱烈な広島カープフアンであつたAを罵倒するやうなことを言ひ始めた。そこで、かなり酒の入つてゐたAは、まう我慢ならぬと、その男の顔にいきなりコツプの水をぶちまけるといふ行動に出たが、それが二人のバトルの始まりであつた。

しかし、そのバトルは長く続かなかつた。騒ぎを聞き附けたのか、丁度その店に入つてきたところなのか判らなかつたが、見覚えのある男が、あたふたしてゐる私の眼の前に突然現れたかと思ふと、「やめろ!やめろ!」と叫びながら二人の間に無理やり割つて入つた。すると、闇雲に拳を振り上げてゐた遊び人風の男はどういふわけか急におとなしくなつて、その喧嘩は突然そこで終了となつてしまつた。結局、Aの喧嘩相手はその後、周りに向かつて二、三度頭を下げると静かにそこから退散して行つたが、その喧嘩の仲裁に入つて事態を丸く収めたその男がKであつた。後に聞いた話に因ると、Aと揉めた男はKの知り合ひでKに何らかの借りがあつたといふ。

それから私は道場でKと一緒に将棋を指したり話をしたりすることが多くなつたが、彼の話によると、彼の所属してゐる團体は構成員の少ない小所帯ながら、江戸時代から続く、その世界では由緒有る組織で、現在の親分は十二代目といふことであつた。そして、彼の口から「オレはその辺のちんぴらヤクザとは違ふ」といふ言葉が洩れることがあつたが、「ぢやあ、いはゆる博徒といふやつですね?」と私が「人生劇場」の飛車角を想ひ浮かべながら訊くと、「ふふ、そんな格好いいもんぢやない。オレは高倉健さんぢやない。ただの博奕打ちさ」といふ返事で、それ以來、仲間内で彼のことが話題に上ると、私は彼のことを「博奕打ち」と呼んで話すやうになつた。

ところで、何故その博奕打ちのKの足音がいちばん判りやすかつたかといふと、どういふわけか、彼はいつも下駄を履いてゐたからであるが、その理由についてはまた後日に書かうと思ふ。凡作ではあるがまた自作の詰将棋を揚げておくことにしよう。

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